オートキャンプと地方創生⑤
~DMO(観光協会)設立と体験プログラム、一次産業とキャンプの共通点~
2022年3月に山口県阿武町にオープンした『ABUキャンプフィールド(ACF)』。その事業計画は2018年に始まります。一連の事業はキャンプ場を創るのではなく、ヒト・モノ・カネの地域内経済循環を促進することで、阿武町を『選ばれるまち』にすることを目的とした地方創生事業の一環として行っています。今回はDMO(観光協会)設立と体験プログラム開発について、お伝えさせて頂きます。
【DMO(観光協会)設立】
『日本で最も美しい村連合』にも加盟した風光明媚な阿武町ですが、これまでに観光施設や景勝地として積極的に売り出す様な観光らしい観光は無かった(と思われていた)為、この町には観光協会的な組織はありませんでした。
しかしながら、棚田を始めとした田畑、整然と成長し続ける人工林、鳴き砂海岸など、その美しい景観をここで紡がれてきた暮らしが維持し続けています。都会に住む人からすると、“観たい”、“学びたい”コンテンツはとても多くあると感じています。
そこで、地域の暮らしの中にある技や知恵、知識を伝える体験プログラムを一緒に学びながら開発を進めていく事業者・住民など17団体を会員としたDMO組織の『阿武町観光ナビ協議会(あぶナビ)』を設立しました。会員は、この町が好きで良いところを知ってもらいたいと思っている地元の方や、この地の海に惚れ込んでカヤックツアーを提供する移住者、金融機関など多岐に渡ります。
人口約3,000人の阿武町ですが、お陰様でABUキャンプフィールドオープンの2022年3月から8月までに人口の2倍超の約6,600人のキャンパーさんにご利用頂いています。
道の駅・温泉併設、新設で衛生的なキャンプ場という事もあり、好評を頂いていますが、我々としては、通常のキャンプ場の枠を超えた場所になる事を目指しています。
あくまでも“キャンプ”は阿武町に来るきっかけの一つでしかなく、ここではその先の『暮らしの体験プログラム』を体験して頂きたいのです。
私は林業や漁業にも関わりがあり、いずれの現場もキャンプとの共通点が多くあると感じています。例えば、張り綱の扱い方、結び方、強度の選定などは、農林漁業でのロープなどの扱い方や考え方と同じです。
また、キャンプは出発直前まで“WINDY”などのお天気アプリで、天気や気温、風向・風力などを逐一調べて臨む“天候に左右されるレジャー”です。農林漁業者も常に天候を気にかけており、収穫時期に台風が来るのであれば刈入れや収穫を早めたり、冬期の積雪や降雨量で田んぼの水が足りるかを観ていらっしゃいます。そんな所からキャンパーの視点があれば、農林漁業との共通点をを身近に感じたり、農林漁業の現場からキャンプに活かせるノウハウを得る事も可能で、相互に関係し合う事で好影響があると考えています。
そこで阿武町では、3年前から漁業体験の一つとして、『一日海士(あま)体験』と称して、特定海域でサザエを素潜りで獲っても良い体験やスウェーデントーチをチェンソーで実際に作る体験、無角和牛の生産農場(観光牧場ではない)の中に入って、実際の生産現場を見学出来るツアーなど、地元住民に教わる一次産業に踏み込んだ体験プログラムを提供しています。
海士体験は“海に潜ってサザエを獲る”というシンプルな体験ですが、風向・風力による波の立ち方や透明度、干満、水温や海藻の生育、他の海洋生物との遭遇、自身の身体の使い方、獲ったサザエの食べ方や流通・価格など、とても多くの学びが在ります。
他の体験も同じ様に、遊びをきっかけに多くの事を学ぶ事が出来ます。
また、昔ながらの暮らしをしている民家で味噌作りや暮らしの技を教わる体験、魚のさばき方や塊肉の焼き方などの調理の技を教わる体験なども住民と一緒に開発しています。
それぞれの体験からは、キャンプはもちろん、日常生活においても有益な技術や知識を得ることができるので、少し要素を加えて、企業や学校など向けの研修プログラムなども開発中です。
この様に、『現地だからこそ学ぶ事ができる』内容をキャンプと言う遊びの延長に置くことで、一つの体験プログラムとして提供することが可能だと考えています。
また、講師を地域住民とする事でユーザーの関係人口となり、住民の収入と同時に出番創出にも寄与します。
海士体験に毎年参加してくれている小学生からは早速『将来、漁師になる!』と言う声も上がっており、地方や一次産業が抱える後継者対策の一助になり、結果的に地方で暮らす人口増に繋がると考えています。
しかしながら、『体験の創り方がわからない』、『都会から来てこんなことして楽しいかね?』など住民が気づいていない部分での体験創出のハードルを、外部講師を招いて学んだり、視察やテストマーケティングを重ねる事、予約決済を一元化する事などをDMO組織が軸となって推進し、越えて行こうとしている所です。
きっと、皆さんの地域にも外部視点で見ると体験プログラムになり得る面白い“ネタ” が‘沢山在ると思います。当たり前過ぎて見過ごしている “ネタ”こそが、域外の人には魅力的だったりします。体験をきっかけに、2泊・3泊、2回・3回と滞在時間を伸ばす事で、更に魅力が伝わるので、地域全体で、その様な“ネタ”を“体験プログラム”として提供されてみてはいかがでしょうか?
我々も試行錯誤しながらですが、一過性のブームではなく、長期間継続してユーザーと学び続ける事ができるキャンプ場を目指しています。
次回(最終回)は、まとめとして全体の振返りとこれからについて、お伝えさせて頂きます。
お読み頂き、ありがとうございます。ご質問・視察依頼等などございましたら、以下までご連絡ください。解る範囲でご対応させて頂きます。
(執筆)
一般社団法人STAGE 田口壽洋 tag@stage.or.jp
合同会社やもり代表社員、NPO法人自伐型林業推進協会 理事。
1978年生まれ、神奈川県出身。
広告業界、アウトドア業界等を経て、島根県津和野町の自伐型林業集団「津和野ヤモリーズ」や「島根わさびブランド推進協議会」の立ち上げなど、中山間地域での仕事創出のサポートを行政とともに行う。
山口県阿武町では、地域内経済循環を促進する地方創生事業の企画推進などのコーディネートを担い、ABUキャンプフィールドの設立、無角和種のブランディングなど中山間地域での仕事創出に係る各種事業推進に携わっている。