オートキャンプと地方創生③
〜ABUキャンプフィールド〜

オートキャンプと地方創生③ 〜スタッフの募集と育成〜〜

2022年3月に山口県阿武町にオープンした『ABUキャンプフィールド(ACF)』。その事業計画は2018年に始まります。一連の事業はキャンプ場を創るのではなく、ヒト・モノ・カネの地域内経済循環を促進することで、阿武町を『選ばれるまち』にすることを目的とした地方創生事業の一環として行っています。今回は事業推進する上でのスタッフの確保や研修・育成などについてお伝えさせて頂きます。

【スタッフ募集】

皆さんは、『地域おこし協力隊』や『集落支援員』という制度をご存知でしょうか?これらの制度は、総務省が行っている『地域力の想像・地方の再生』を目的にした自治体への人材支援です。2022年現在では、協力隊は480万円/人、支援員は430万円/人が特別交付税として措置されます。任期は協力隊3カ年、支援員は特に期限なしとされていますが、基本的には1年更新で、自治体による独自規定がある場合もあります。前述の金額の約6割が人件費として、残りが社会保障料含む活動費として活用できます。活動費は、視察研修等の出張旅費や資格取得、活動車両のリース料、消耗品などに充当することが出来ます。直接の雇用主は、自治体になることが多い様ですが、事業体や団体などを活動拠点とすることもあります。
ABUキャンプフィールドでは、これらの制度を活用して、自治体主体でスタッフ募集を行いました。これにより、キャンプフィールド立ち上げ時期の人件費の負担を軽減する事も可能となります。協力隊は三大都市圏外からの住民票の異動が条件ですが、支援員は元々その
地域在住の方でも適用されます。キャンプフィールド運営に必要な管理職、現場リーダー、体験プログラム担当、観光担当などのスタッフ配置を検討し、各ポジションに必要なスキルやミッションを設定して、役場や地域おこし協力隊ホームページなどで募集を行いました。協力隊については、全国で売り手市場ではありますが、想いやミッションを明確に伝えることで、必要な人材が集まりやすくなると考えています。

【スタッフ育成〜会計年度任用職員として〜】

採用が決まり着任すると、早速ミッションスタートです。ミッションスタートと言っても、地方で活動をするには、まずはその土地の特性を暮らしも含めて知る必要があります。
協力隊や支援員は役場の『会計年度任用職員』として、特別交付税を財源に雇用されている準公務員的な存在です。都会と違って、個人が特定されやすい環境では、相応の行動規範を遵守しなければ、すぐに雇用主である役場にクレームが入ってしまいます。地域で活動を推進するためには、そのあたりについて理解してもらう事も、初期の段階では大事な要件となってきます。並行して、募集要項に記載されている事業概要や意義、目指す姿など、改めて詳しくお伝えしました。

【スタッフ育成〜技術編〜】

それらが済んだら、漸くキャンプについての研修を行っていきます。『キャンプ経験がある』と一言で言っても、現在はいろいろなスタイルのキャンプがあります。また、適切な設営方法とその意味、天候を読み解く力、リスクマネジメント、それらをお客さんにわかりやすく説明する事など、『キャンプスタッフとしてキャンプをする事』と『プライベートでキャンプをする事』では、必要な知識やスキルが違い、それについても学ぶ必要があります。これらについては、実際に道具に触ってみないとわからないので、業務として近隣キャンプ場へキャンプに行ったり、イベント出展時に設営撤収を繰り返す事で一連の道具の特性等について学んでもらいました。
また、スノーピーク地方創生コンサルティング様にもご協力頂き、PRキャンプイベントの開催、SP奥日田CFや太宰府の直営店などでスノーピークスタッフと一緒に働かせてもらうOJT研修、スノーピーク役員による社員向け講習受講など、様々な角度からの研修を繰り返す事で、道具の扱いはもちろん、キャンプ場として提供すべきサービスやお客さんとの接点の作り方、情報収集などオープン前までに多くの経験を積みました。

スノーピーク奥日田CFでのPRキャンプ研修
片添ヶ浜海浜公園オートキャンプ場でのPRキャンプ研修
スノーピーク太宰府店での研修

【スタッフ育成〜キャンプ場運営編〜】

運営についても、SP奥日田CFで一連の営業を体験させて頂いたり、運営マニュアルのベースを頂いて、当地の運営に適した内容にリライトすることで、スタッフ間の共通認識を図ることが出来ています。また、阿武町には約30年前に開設された『遠岳キャンプ場』があります。こちらは3m四方にレンガの枠組みがされた12サイトがあり、集落の団体(平均年齢75歳!?)が7/10〜8/31の夏季のみ、「¥100/人日」で運営していました。こちらを改修して、スタッフ研修を兼ねた実践的な研修の場として活用させて頂く事ができ、2021年4月末〜2021年12月末まで研修スタッフで営業を致しました。

遠岳キャンプ場での研修

次回は、この『遠岳キャンプ場』のリニューアルと試験営業の結果について、お伝えさせて頂きます。お読み頂き、ありがとうございます。ご質問・視察依頼等などございましたら、以下までご連絡ください。解る範囲でご対応させて頂きます。


(執筆)
一般社団法人STAGE 田口壽洋 tag@stage.or.jp

合同会社やもり代表社員、NPO法人自伐型林業推進協会 理事。
1978年生まれ、神奈川県出身。
広告業界、アウトドア業界等を経て、島根県津和野町の自伐型林業集団「津和野ヤモリーズ」や「島根わさびブランド推進協議会」の立ち上げなど、中山間地域での仕事創出のサポートを行政とともに行う。

山口県阿武町では、地域内経済循環を促進する地方創生事業の企画推進などのコーディネートを担い、ABUキャンプフィールドの設立、無角和種のブランディングなど中山間地域での仕事創出に係る各種事業推進に携わっている。