皆さんこんにちは。遂にコラムも最終回、とても感慨深いです。手前味噌ですが、これまで月1回のコラムに相当量のエネルギーを注いできましたし、名はコラムといえど、その実内容はさながらセミナーの如く深い内容であったかとおもいます。いち民間企業に勤めている私が、一見得にならないようにみえる全力の経営コラムを引き受けた理由は主に2つ。
- 現、日本オートキャンプ協会会長の恩に報いること
- 棚卸&マニュアル整備
これ以外にあまり深い理由はありません。時に読者を置いていってしまうきらいがありましたが、引き受けた理由が上記のようなものでしたので、その目的が達成されそうな今、私の心境としては非常に満足しております。
連載スケジュール
- 4月-ビジネスとしてのキャンプ場(自己紹介、知的資本の分類、定義づけ)
- 5月-市場分析(マクロ要因・ミクロ要因分析)
- 6月-業界分析(OCC:稼働率、ADR:区平均単価、RevPER)
- 7月-業界分析(RevPER、ADRと RevPER比較から考察)
- 8月-収益性分析(企業会計と損益計算書の考察)
- 9月-収益性分析(貸借対照表の考察と動態比率分析)
- 10月-収益性の改善(需要曲線とレベニューマネジメント)
- 11月-収益性の改善(シーズンカレンダーとプライシング)
- 12月-事業戦略と事業計画(長期事業構想書と予算編成、実績管理)
- 1月-マーケティング(自社分析・ブランディングとプロモーション・差別化)
- 2月-人事(雇用・教育・評価・賃金・労働分配と生産性・組織造り)
- 3月-まとめ(顧客創造と業界の未来)←今回ココ
■恩に報いる
これまで多くのキャンプにまつわるセミナーや書籍がありましたが、「キャンプ場の経営」という観点で深い内容で語るものはあまりなかったと思います。それは私がキャンプ業界に転職して10年、欲しかったけれど簡単に情報を得ることが出来ないものでした。本コラムでは私ども民間キャンプ場の実際の生データを参照に皆様と一緒に考察をしてきました。その内容は、初めて見聞きし、また知っているけれど実践はしていない方がほとんどであったのではないかと思います。
大げさに言えば後進的と言わざるを得ないキャンプ場業界に、本コラムによって「企業経営の基礎概念」を導入することができたのならば、過去10年類のないものであり革命ではないか。そしてコラムの内容を本当の意味で実行出来るとすれば、キャンプ場の売上利益の拡大はそう難しくはないといえるのではないだろうか。それぐらいの内容かと思います。
当社の第二創世記に現日本オートキャンプ協会会長の言葉がどれだけ私の力になったかを考えると、やっと恩返しができたのかもしれません。
■棚卸とマニュアル化
私がキャンプ場で働いてから10年、社会も大きな変化をしてきましたが、私たちの会社も大きな変化をしてきました。私はこの経験全てを体系的に文章にしたいと考えました。いわずもがなその目的は会社の「知的資本の蓄積」と「後進の育成」です。特に私どもの会社は、今年度に飲食店の運営とアイスクリーム製造業の新規事業が始まります。ゆくゆくはキャンプ事業の知的資本を次代の幹部候補に共有し、私自身も会社も次に進んでいきたいと考えました。
第一回目のコラムで、会社(組織)は資産ではなく「知的資本の集積」によってのみ成り立つ、第十一回目、知的資本を生み出しキャッシュの源泉になるのは「結局ヒト」であると述べました。それが高いレベルで実現できるのはリーダー・幹部の仕事と心得ます。分かっていても日々の仕事に忙殺され、成果をなかなか纏めることができなかったのですが、コラムの機会を以ってようやく自分の思考を具現化することが出来たのです。
このようにして掲載されたコラムの目的は、本来業界のためではなくあくまで恩返しと自社の経営を良くすることです。先に述べたようにこれは私たちの会社の資本であり後身へのギフトです。皆様はその本当の意味をご理解くださいますでしょうか。
■競争と淘汰
新型コロナによって、私たちを取り巻く環境は著しい変化に見舞われました。そして特需に沸く昨今の業界の未来は今後どうなっていくのでしょうか。キャンプ人口はしばらく増加する傾向が続くと思いますが、高齢化や人口減少の大波は避けられません。
また、政府の補助金などの後押しもあり、今年度のキャンプ・グランピングの開業は250以上と囁かれ、その多くは異業種参入ともいわれています。長くキャンプ業界にいる方々からは、「新規開業する施設には評判が良くないものもあるよ」と聞くことも多いのですが、それらの良し悪しは私にはわかりません。ですが、これからは競争による牌の奪い合いと共に「特需カウンターによる需要減衰」が同時に起こり、誰かが淘汰されていくのは必然と考えます。そうなった場合、あなたはあなたのビジネスを悲観するしかないのでしょうか。
実は私自身、業界の未来について楽観も悲観もしておりません。なぜなら、未来を創るという行為は「すべて私たち自身の手の中にある」、という覚悟で働くしかないと考え、常に一歩先を見据えたマーケティングを実行しているからです。例えばつい先日、商工会から昨今の社会情勢から価格の転嫁は出来ていますか?とアンケートが来ました。そのような場合、私たちはその回答はイイエではなく、先を見据えて常にイエスでなければならないのです。
■顧客の創造と業界の未来
コラムの第十回目では、「マーケティングとは、消費者と生産者を客観的に観察し、愛情と慧眼を以って永続的に需給活動をしていこうとする全ての行為」と定義し、平易に総括するとその内容は以下のようになります。
- 取り扱う商品・サービスに誇り(理念)を持ち
- 価値を創造し(ベネフィット)
- 珠を磨いて(優位性)
- 来て欲しい人(ターゲット)に
- 素晴らしさを伝えて(プロモーション)
- ご来場のお客さまをもてなし(ホスピタリティ)
- 満足させ再訪してもらう(リピート)
- 効果測定(財務分析)をし、課題を作成(問題解決)する
一見シンプルなこの内容を死ぬほど真剣に考えている組織はどのぐらいあるのでしょう。考えるだけではなく、実際に正しく実行できている組織は?
できているならば、あなたの組織は良い組織であるといえます。良い組織は必ずや顧客を創造し、あなたのキャンプ場を多くの利用者で賑わせ活気ある場にしてくれるでしょう。そしてその顧客は生涯に渡り何らかの形で業界に関わり、きっと後の社会を豊かにしていくでしょう。そのようにマーケティングとは、顧客創造であり未来創造に他ならないのです。
第一回のコラムではキャンプ場を定義し、こう結論付けました。
- キャンプは国民の福利に貢献する素晴らしいレジャーである
- 福利を最大限にするためには、多くのキャンプ場が長く営業していくこと
- そのためには健全な経営が必要
ここで既に業界の未来について示唆されています。
その後、三回目のコラムではキャンプ市場について観察しました。キャンプ場の市場規模は小さく生産性も低い未成熟な市場であると結論付けたと思います。ここから脱却するには、比較することと説きました。財務を学び経営を知り、比較することで組織を持続可能にすることができます。実際、あなたの会社の財務分析はしてみましたか?その結果、あなたの会社の健康状態はいかがでしたでしょうか。結果が悪くても大丈夫。結果を求める計算式のどこかに、必ず問題点はあるのですから。
そして稼働率や客単価だけではなくRevPER値という概念を手に入れたキャンプ場は、今後は知恵を絞って生産性を高めることが出来そうな予感がします。需要曲線からみる均衡点とベストプライスの考察が終わるころには、より消費者目線に沿った需要予測ができるようになったのではないかと思います。
また2月に考察した満足度を上げる考察から包括的戦略を立案し、新しい年度を迎えることができましたでしょうか。その素晴らしい計画は衆知を集めることに繋がります。衆知の中には、類まれなる宝がある場合があります。先月のコラムでは会計上の投資効率の話から幹部候補を見抜き育てよと述べました。優れたリーダーは結果を変える大きな力を有しています。このコラムを愛読されている方の中には、その素養がある方もいるかもれませんね(^^
このように一年かけて様々な経営の要素について説明してきましたが、キャンプ場は少数精鋭であるがゆえに一人一人が手段を尽くし全霊で働かなくてはなりません。たった1%の利益の多寡で笑い泣くことがある今後のビジネスの世界で、知らない、出来ないでは淘汰されてしまいます。
なんとも未成熟で主観的な、愛おしきキャンプ市場。足りないのは事実を基に判断していく客観性。数字を逃さず、傍観せず、生きた数字としてキャンプ場の現場でもっともっと議論され意思決定に活用されていく、そんな未来がなんとも望ましいのではないか。私と皆さんは生き残りをかけ勝ち続ける道具としてこれらのことを活用し、変遷する市場の中で光を放っていく。それはきっと業界に福音を齎すに違いない。
■雨降りの日に
その後の人生を大きく転換させるような経験は、生きている間いったい何回あるのでしょうか。私の場合、5年に一回程、転機となる経験をするように感じます。恐らくつい先日、その一回があったのではないかと思います。
とある春驟雨の日、職場近くの自販機前で休憩をしていました。その日は肌寒い日で温かい飲み物に小さな幸せを感じていたのですが、ふと目の前に、雨に濡れたランニングウェアを着た初老の老人が走り過ぎ去りようとしていました。よく見るとその方は、前飯能市長の大久保さんでした。
大久保さんは当キャンプ場がある飯能市の議員を3選、その後2021年まで2期8年市長を務められました。大久保さんは在位期間中に大病をしたのですがその後快復され、消滅可能性都市に指定された同市をメッツァをはじめ観光施設の誘致など精力的に対外施策を試み、長年「転出超」であった人口を「転入超」にした功績を持つ方です。
前市長と気づいた私は、どうして雨なのに走るのか、体に障るのではないかと呼び止めました。すると前市長はこう答えました。
「私は事前に走る日を決めている。雨が降ったからといって走らない理由にはならない。何故なら自分で走ると決めたのだから。どんなことがあっても決めたことをやり抜くことが大事なことだ。そうだろう?」
そして続けてこう言いました。
「私が市長の時は市民のみんなに頑張れとたき付けてきた。今は市長ではなくなってしまったけれどその恩に報いるためにいつでも頑張っていなければならないんだ」
そう言って颯爽と走り去って行かれました。公人とは常に権力の集中を避けるために批判に晒されることも多く、自分には到底出来ない、バイタリティのある人でなければ出来ないことだと常々思っていました。そして今回、前市長の「言葉と態度」を目の当たりにし、私は深い感銘を受けたのです。
10年前、キャンプ場に転職して右も左も分からない私が日本オートキャンプ協会のインストラクターになってから、現会長の明瀬さんは私たちのキャンプ場を随分可愛がってくれました。「ケニーズは面白い、可能性があるよ」との言葉は10年前の私の転機となる言葉でした。そしてこの言葉がどれほどの力になったことか。足りないを知る私はそんな少しの自信とともに、現在に至ることができたのです。
私は今回のコラム掲載で幾千の言葉を紡いで伝えることを試みました。コラムではこの末文を以って「まずやり抜くこと」は完了できるのですが、自分がもらってきたように誰かの転機となるようなものであったのだろうか。そしてこれからの人生で、私は自分の態度で誰に何を伝えることができるのだろうか。
少なくとも私は私が決めたことをこの先もたくさん実行していこう。雨の中を走るように、そうありたい。
日々そんなことを考えている。
長くなりましたがひとまず、本コラムはこれにて「修了」とさせていただきます。一年もの間、乱文にお付き合いくださり有難うございました。軽く引き受けたコラムが思いのほか大変で、徹夜した日もありましたし、手抜きしようと考えたこともありました。ですが当初の熱意のまま走り抜けることが出来て良かったです。生意気なことをいってしまい申し訳なかったですが、本当に充実していました。何か疑問点などがありましたらお気軽にキャンプ場までお電話いただけますでしょうか。また、近くにお越しの際はお気軽に遊びに来てください!皆さんの益々のご活躍を祈念申し上げ、結びの言葉とかえさせていただきます。
執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。