第5回 収益性の分析(1)

キャンプ場の収益性を分析しよう!

こんにちは。早いものでコラムも5回目となりました。今回から収益性の分析ということで、決算という切り口からキャンプ場の経営について考えていきたいと思います。決算書がお手元にある方は電卓を片手に、決算書が無い方は想像をしながら…決算書を見れる権限を得られるよう、日々のお仕事に精進してください! 早速ですが、振り返りから参りましょう!


【連載スケジュール】

企業会計とは

会社は一年に一度、決算という帳簿(簿記)の集大成があります。いくら儲け(損失)を出し、財産がどう変化したかを理解する為のもので、会計書類(財務諸表)は主に3つあり、それらをまとめていわゆる決算書と呼ぶことが多いです。決算書は企業状態を確認・判断できる重要なツールであるといえます。

 主な財務諸表は以下の3つ

  • 損益計算書 (B/S:Balance Sheet)…売上から費用を差し引いて、儲け(損失)を算出す
  • 貸借対照表 (P/L: Profit and Loss Statement )…資産と借金のリスト
  • 資金繰り表 (Cash Flow)…現金収支をまとめた表

キャンプ場が個人事業主の場合は企業会計をする必要はなく、簡便な申告で税金などの申告をすれば良いとされています。ですがキャンプ場が法人の場合、会計ルールに従った企業会計が必要となります。

企業活動は資金調達、投資活動、営業活動の順に常に循環していますが、いずれかの循環が上手くいかなくなると、企業は停滞し、倒産の憂き目にあってしまいます。
決算書の本来の目的とは、停滞に対し的確な経営判断をするためのツール、といってもいいかもしれません。

決算書は企業の健康診断結果

決算書は人でいうところの「健康診断の結果」と考えると理解しやすいでしょう。ですので、決算書も健康診断の結果と同じく、どうしてその結果になったのかを理解し改善することが必要と言えます。ただし、健康診断では医師が「要検査!直すには手術!または生活改善ね!」と手ほどきをしてくれるのですが、決算書の生データだけでは結果の因果関係を理解するには不十分ですし、ましてや指導をしたり手術をしてくれたりする人は、基本的にはいません。

決算書を読み解くには多少の経理知識が必要ですが、知らない間に会社が健康体ではなくなっている可能性があったとしたら…知りたくなるのは当然ですよね?
会計士から渡された決算書はもらっただけではただの紙切れ、それをどのように活かすかが、キャンプ場をビジネスとして発展できるかのカギとなると言えます。

決算書と財務指標について

決算書に記載されている数字を、掛けたり割ったり足したりして組み合わせると財務指標を拠出することができます。その内容を理解できるようになると、指標数値が悪い結果、どこを改善すれば良いのが分かるようになります。財務指標は150以上もの種類がありますが、その指標を基に収益性・生産性・健全性を推し量ることができます。さらにその指標は異業種や同業他社と比較すると、問題点が明確になる非常に優れたツールとなり得るのです。私がいつも検証している財務指標は20程度です。

財務指標の例
売上高原価率、限界利益率、営業利益率、高経常利益率、人件費率、労働分配率、自己資本利益率、流動比率、総資本経常利益率、借入金依存度、棚卸期間回転期間など

財務指標分析の例

例えば売上高対人件費率は、売上高に対して人件費がどのような割合かを求める指標となりますが、計算式は以下のようになります。

売上高人件比率(%)=人件費÷売上高×100 

売上が3000万円、人件費が1000万円の場合、人件費率は33%
売上が3000万円、人件費が3300万円の場合、人件費率は110% (赤字)

それでは、赤字を改善するにはどうしたら良いでしょう。解決方法は2つ、構成要素である売上か人件費の数値を改善することです。
私の場合だったら、「雇用を削減したり給与を下げたりして人件費削減をすることは考えず、人のリソースを最大限活用して売上を1億円まで増加させ、相対的に人件費率を33%にまで下げる」ことをまず考えていくと思います。

このように指標数値には、割る数と割られる数には因果関係があり、分析した結果、先程のように具体的な売上1億の数値目標が出来、そのギャップを埋める為に課題を作成していくわけです。状況によっては人員削減を真っ先に考える必要もありそうです。
では、もう少し考えてみます。

キャンプ場Aの売上は3000万円、人件費1000万円、人件費率33%
キャンプ場Bの売上は3000万円、人件費1800万円、人件費率70%

直感的にどうでしょうか?
Aは人件費を33%まで抑えており、優秀です。Bは人件費をかけすぎで、生産性が低そうですね。
それでは前提条件を変えます。

キャンプ場業界の人件費率の平均値は、60%と仮定

どうでしょうか?Aの人件費率は平均値より数値が著しく低く問題がありそうです。給料が安いか労働条件が違法かもしれません。待遇が悪いことによって離職率が高くなる場合があります。見直さない場合、事業継続が難しくなる場合も考えられます。
一方、Bは平均値よりも人件費率の数値が高く、給与水準が高い為求人で有利であったり、離職率が低くなった結果、事業の安定性が高くなる場合があります。

さらに人件費率の前提条件を追加します。

小売業の人件費率は20%、旅館・ホテルは30%、美容室は53%

こうなるとキャンプ場の人件費率60%は相対的に高く、業界全体でイノベーションをして比率を下げていく工夫をしなければならないでしょう。むしろ先ほど人件費率が低かったBキャンプ場は、旅館やホテルの人件費率に近く、特別の秘密のスペシャルな仕組みによって従業員満足度を下げず人件費率を押さえている可能性もあり、素晴らしくDXなキャンプ場かもしれません。
このように財務指標の平均値が公表されていることは、的確な経営判断するにあたって多くのメリットがあるわけです。

キャンプ場の財務指標の統計データも、無い

財務指標は、市場規模の高い飲食業、旅館業、小売り、製造業、サービス業など多くの業種は、経済産業省などにデータのストックがあります。また規模の大きい業界ごとに財務諸表を集計公表している場合も多いです。

例えば一般社団法人日本旅館協会では毎年一回、財務諸表を基にした「営業状況統計調査」の結果を一般公開しています。調査結果には、旅館が主に参照すべき財務指標の平均値・構成比などが、大・中・小規模の旅館に分類したうえで記載されています。
もし旅館業を営んでいるならば、それらのデータを自社と比較した結果、自社の善し悪しが明確に判断できるのではないかと思います。チェックした結果、良いところは伸ばし悪いところは改善すれば良いだけの話です。

実は先程、キャンプ場の人件費率は60%と仮定しましたが、そんなデータはどこにもありません。キャンプ業界では、150ある財務指標のただの1つも統計が取れておりません。そればかりか、第一回目の本コラムから繰り返し述べているように、市場規模、売上高平均値、客単価もRevPAR値も拠出されていないというのが現状です。

せっかく社会基盤として需要が高まっている業界なのですから、今後はキャンプ場全体で財務データを持ち寄り経営を分析し、経営基盤の安定をはかっていくことが業界の未来のために必要だと考えています。そのためには、決算書を読み解ける人材を少しでも増やしていく、というのが本コラムの裏テーマでもあります。

損益計算書の分析

それでは決算書の具体的な考察をしていきます。
決算書の一つ、損益計算書を用いることによって売上と費用、利益を考えることができます。一年間の商売の報告書となります。会計事務所からくる損益計算書は大体下記のようなものになります。

損益計算書は、当然ではありますが、最終的には利益がプラスになっているかどうかが重要です。

損益計算書の活用方法

損益計算書の数字を利用すれば、会社のどの部分を伸ばせばよいのか分析することができます。
分析に有効な数値として、ここでは「売上総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」「人件費率」「労働分配率」などを解説します。

売上総利益率(粗利率) 

売上総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100

数値が高い程、利益率が高いということになりますが、業種によって数値がかなり異なるため、同業種間や自社の数年のデータの推移を比較する必要があります。

売上高営業利益率

売上高に対する営業利益の割合で、本業がどれだけ利益を上げられているかを表します。

売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100

数値が高い程、本業での利益が上がっていることになりますが、こちらも業種間に違いがあります。一般的には、5%を超えると上場企業並みに優良とされ、標準では1~3%程といわれています。

売上高経常利益率

通常の会社の活動で上がる経常利益に対して、どれだけ売上高が上がっているかを表します。

売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100

数値が高い程、効率的な経営であるといえます。一般的には、4%を超えてくると上場企業並みに優良とされ、標準では0.7~3%程といわれています。もし0%を下回っていると赤字経営状態であるので、収益を上げたり費用を抑えたりと対策が必要です。

ちゃんとしたデータはありませんが、私が見聞きし推測したキャンプ場の経常利益率の平均は1%前後と推測します。おそらく他の業界よりも経常利益率は低いと推測します。

次にケニーズの経常利益の推移をみていきます。2014年に経常利益が大きく下がりましたが、これは社会保険に加入し社員を増加させたため人件費が増加し、利益を圧迫したからです。また16年にも経常利益が下がりましたが、この年は2店舗目のキャンプ場立ち上げに費用を捻出したためです。現在の経常利益率は25%と非常に良好に見えますが、これはBCP(事業継続計画)に基づきコロナ過や天変地異などのリスク回避としての預金増加、老朽化した設備の改修や新店舗立上げの費用、給与・保険の積立てに充当していく予定です。

売上高対人件費率

売上高に対してどれだけ人件費をかけているのかの割合を表します。 

売上高人件比率(%)=人件費÷売上高×100

この計算式のうち、人件費に含まれるのは以下のようなものが含まれます。(給与、賞与、各種手当、退職金引当金、社会保険料、労働保険料、福利厚生費、通勤定期券、社宅などの費用)
また業界によって人件費率は下記のように異なるため注意が必要です。

仕入れが発生する業態は人件費率は下がります。逆に人が資本である介護・サービス業などの労働集約型の産業の人件費率は高くなります。ちゃんとしたデータはありませんが、私が見聞きし推測したキャンプ場の人件費率の平均は50~70%に着地すると推測し、キャンプ場も労働集約型の産業といえるでしょう。もし、この推測が妥当であればいくら労働集約型とはいえ、キャンプ場の人件費率は非常に高いです。かといってキャンプ場の給与水準は、他のサービス業や旅館業よりは低い傾向がある為、生産性は低いものと類推されます。

ケニーズはの人件費率をみると、2011年に人件費率が下がりました。これはWEB改修のプロモーション効果にる売上増加のため人件費率が押し下がりました。14年から社会保険に加入し雇用条件を改善させたことで人件費がぐんと引き上がりました。その後はさらに社員を増加させ、賞与等の給与水準を引き上げていきました。そしてそこから定着した社員の教育が進み、サービスが向上し生産性が上がることによって売上げが増加、相対的に人件費率が押し下がっているのが現況です。

さて、現在のケニーズの人件比率は37%ですが、キャンプ場の人件費率の平均値は50-70%と類推しました。これはケニーズの給与水準が低いのか、それとも先ほど異業種の人件費率比較で述べた通り業界の生産性が低いのかの考察も必要となります。それを検証するには労働分配率という指標を用います。

労働分配率

人件費率は売上高に対する人件費でしたが、労働分配率は付加価値に対して、どれだけ人件費をかけているのかの割合を表します。「付加価値」とは中小企業では単純に、売上から原価をひいたもの、とここでは定義します。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100

「原価代が差し引かれた付加価値」からの人件費の割合を求めることによって、労働分配率は人件費率に比べ異業種間でもある程度数値は収斂していきます。

やはりここでも労働集約型の人件費率は高くなりますが、仕入業や設備投資費が高くなる産業においても分配率は引き上がり、全業種平均の労働分配率は42-47%となります。
一方キャンプ場の労働分配率の平均は55~75%あたりと類推し、この数値が妥当だとすると、やはりキャンプ場の労働分配率は高いものといえます。
原因は、例えばキャンプ場は旅館業に比べ客単価が低く、稼働率も弱い為です。前回述べたRevPER値が低いことに起因します。

人件費率と労働分配率をグラフにすると以下のようになります。

ケニーズの労働分配率は全業種の平均より低いです。その理由は、ケニーズのRevPER値が高く、キャンプ業界推測平均値の約3倍生産性が高くなっているからです。また給与支払額が低いのではないかとの疑問もありますが、実際ケニーズの給与水準は、東京都中小企業の旅館業・サービス業の平均値よりも高く設定しています。私個人の所見では、キャンプ業界全体の労働分配率は決して良い数値とは言えないと考えており、労働分配率の数値によっては、以下のようなことが考えられます。

労働分配率が高い場合

給与が高い結果として労働分配率が高い場合、従業員の満足度や士気が高い状態で維持されているため、将来的に会社が成長して収益が増える可能性があります。十分な給与が支払われることで離職率がさがり人材流出を防止します。
ただし、労働分配率が高い状態が続くと、例えば設備投資が疎かになり、生産性の低下を招いたり顧客満足度が低下する可能性があります。他にもバランス良く資金を配分することが成長には欠かせません。
また、人件費の削減で労働分配率を改善しようとした場合、従業員の反発を招くこともあるので注意が必要です。できれば業務効率化を進め、高売りをするなどの対策によって相対的に労働分配率を引き下げていくのが良いと考えています。

労働分配率が低い場合

少ない人件費で多くの付加価値を生み出しているのであれば、収益性が高いことになります。しかし、人件費に十分な額が配分されていない場合は、従業員の士気が低くて生産性が上がらず、離職者が増えて優秀な人材を失い企業が衰退することになりかねません。
このような事態を避けるためには労働分配率を上げる必要があり、給与や賞与のアップ、研修制度や福利厚生の充実などを複合的に考えていく必要があります。また単に給与や賞与の金額を上げるだけでなく、業績連動型の給与制度や賞与制度を導入するのも1つの方法です。

労働分配率は、そもそも業界データが無かったり、業種や経営者によっても定義や程度のバラツキが多く単純な答えが無いが故に、非常に難しい問題ともいえます。
ですからここでは労働分配率のあるべき姿として、まずは「事業構造・経営者の志向に合わせて、自社の適正範囲で中期的にコントロールされている」ことを理想とし、定期観察を怠らないようにしていきたい、と結論付けておきます。

自己管理が出来る人は、マネジメントに向いている?

少し話が逸れますが、実際私がキャンプ場で働き始めた時の閑散期のお仕事は、決算書のデータ化と財務指標の拠出・分析でした。当時のキャンプ場は、あまり健康体であったとはいえず、健康診断の結果…真っ赤な血を流しておりました。それから毎年、分析をもとに課題を作成し、検証を重ねながらし経営改善をしていきました。今では要検査であった数値は大幅に改善され、バッチリ健康体になったキャンプ場は、地域のリーダーを目指して多くの方を迎えられるよう次のステップに突入しようと考えています。

また副次的なベネフィットとして、経営を知れば知るほど私自身の体重が減り10㎏も減量することができました。経営を知り数字に拘ることによって、それまでフーンと流していた健康診断の結果を分析し、運動や食事等の改善に繋げることができるようになったからです。
入社当時66kgあった体重は現在55kgを維持しています。久しぶりに会った皆さんに「大丈夫?」といわれることもありますが、自身はさておき欧米諸国ではビジネスエリートはスマートで健康な人が多い、と言われる所以はこのようなところにもあるのではないでしょうか。

自己管理が出来る人は、マネジメントにも向いているといえるでしょう。自己管理が出来ない人は、会社の数字を良くすることもあまりないのかもしれません。

収益性分析(企業会計、損益計算書)まとめ

ということで、今回は決算書の1つ、損益計算書と財務指標を基にキャンプ場の経営について分析、提言を行いました。おそらくキャンプ場の経常利益率は低く、人件費割合も高く、生産性は低いです。どちらかといえば、儲からない商売だな!というのが本音です。実際、「天気が悪ければ売上が下がって俺の給料が年200万、天気がよければ400万」と言っていたオーナーさんがいました。このことが悪い事とは言いません。

だからといって、「儲けなくても良いビジネスモデル」でいいのだろうかとも思うわけです。個人的な見解を言えば、ここを脱却できない場合、いつまでもキャンプ場運営者のステータスは上がっていかないのではないか。ブーム後にはいつかユーザーを失望させ、定着しないまま一過性で終わってしまうことを大いに危惧しているところです。その為には、データの可視化・共有は大いに必要であると、今一度述べたいと思います。仲の良い経営者が集まって勉強会を開催するのも良さそうです。

それでは次回、収益性分析2として、主たる決算書のもう一つ、貸借対照表の考察と動態比率分析をしていきたいと思います。貸借対照表は損益計算書に比べ、預金や固定資産、借入金などの要素があり、よりオーナシップな要素が強いので理解するにはなかなか難しいと思います。ですがここから導き出す財務指標と、「貸借対照表×損益計算書」から導き出す動態比率分析は会社の仕組みであるヒト・モノ・カネを把握するに十分な内容となっており、経営分析のダイナミックな部分でもあると感じています。経営者だけでなく高次な意思決定をされる方は、きっと最適・最善な決定の一助になり得ると思います。

それでは今日はこの辺で、また来月宜しくお願いします。


執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。