キャンプ場の業界分析をしよう!
「第一回目」はキャンプ場を経営する意義について、中世ヨーロッパ東インド会社の近代資本主義の健全な会社発展の概念を例に「国民の福利を最大限にするためには、良いキャンプ場ができるだけ長く営業していくこと!」と説きました。また定性を保つためには、「組織化と収益性の向上が重要」としました。
そして「第二回目」のコラムでは市場分析をしキャンプ場の市場規模と一店舗売上高を拠出、比較した結果「キャンプ場の一店舗の売上高は、他の宿泊施設・業態に比較し低い」ということを業界の根源的な問題であると指摘しました。
さて「第3回目」になる本稿では、問題をさらに浮き彫りにするために業界分析(Industry analysis)にすすみたいと思います。また業界分析では以下に記載する4つの視点でさらに突っ込んでいきたいと思います!
《業界分析》
- 稼働率分析
- ADR分析(Average Daily Rate、実際に利用された区画の平均単価)
- RevPAR分析(Revenue Per Available Room、営業日の1区画の平均販売単価)
- ADR分析×RevPAR分析(クロス分析)
【連載スケジュール】
- 4月-ビジネスとしてのキャンプ場(自己紹介、知的資本の分類、定義づけ)
- 5月-市場分析(マクロ要因・ミクロ要因分析)
- 6月-業界分析(OCC:稼働率、ADR:区平均単価、RevPER) ←今回はココ
- 7月-業界分析(RevPER、ADRと RevPER比較から考察)
- 8月-収益性分析(企業会計と損益計算書の考察)
- 9月-収益性分析(貸借対照表の考察と動態比率分析)
- 10月-収益性の改善(需要曲線とレベニューマネジメント)
- 11月-収益性の改善(シーズンカレンダーとプライシング)
- 12月-事業戦略と事業計画(長期事業構想書と予算編成、実績管理)
- 1月-マーケティング(自社分析・ブランディングとプロモーション・差別化)
- 2月-人事(雇用・教育・評価・賃金・労働分配と生産性・組織造り)
- 3月-まとめ(顧客創造と業界の未来)
① 稼働率の分析
稼働率とは…稼働しているサイト数のことで、実際に利用したサイト数を全体のサイト数から割り出した数値です。Occupancy rate、略してOCCと表記されます。観光ホテルや旅館・キャンプ場などは、GWのような大型連休は稼働率が上がり、オフシーズンは稼働率が下がる傾向にあります。
稼働率は以下の計算式で求めることができます。
稼働率(OCC)=利用されたサイト数÷販売可能なサイト数
1日の宿泊利用が50サイト、販売可能数が100サイトの場合、50÷100=0.5。
つまり1日の稼働率は50%ということになります。
日本オートキャンプ協会が発表するオートキャンプ場の年間稼働率の計算式は以下の通りです。
年間稼働率(OCC)=利用されたサイト数÷(1日の販売可能なサイト数×営業日)
母数は「全サイト数×営業日」で拠出されており、冬季休業をしているキャンプ場などは母数が低いため稼働率が高めに出る計算方法となっています。ですので、稼働率で他業種と生産性を比較する場合、営業日ベースではなく「365日ベース」で数値を拠出したほうが適正と思います。
普通、キャンプ場の稼働率は天候や休日の並びに大きく影響されます。2011年は東日本大震災が発生し稼働が減少しましたが、以降の稼働は微増し続けます。メディアへの露出増加や冬季キャンプ者の増加、働き方改革による有給取得率の上昇なども好要因になりました。また2020年以降はコロナ過による特需(密を避ける行動様式)によって稼働が大きく上昇すると予測されるでしょう。複雑な状況下でもありますが、稼働が上昇している傾向は業界人として単純に嬉しく思います。
■ケニーズ、稼働率の推移
私がケニーズというキャンプ場に就業した2010年、稼働率は8%台と平均より低く人気のキャンプ場という訳ではありませんでした。経営改善には様々なアイディアがありましたが、優先順位としてまず稼働率を上げることを第一の課題として取り組むことにしました。
それまでのケニーズは「単一料金、定休日無し」でしたが、翌年にはシーズンカレンダー制を導入、「4シーズン制、平日2休制」に変更しました。目的はこれら制度の導入によって需給バランスを整えること、光熱費や人件費などの固定費の削減による生産性の向上です。
この取り組みによって生産性が上がり、相対的に人件費率が下がりました。それから残った従業員の給与待遇を大きく引き上げ、休みを増やすなど雇用条件の改善をすることができました。またそうすることで採用にも有利にはたらき、スポットアルバイトの構成比を下げ→通年雇用や社員雇用をすることで従業員の質が高まり、サービス品質とともに客単価を引き上げ、売上・利益を大幅に向上させるという好循環を実現することが可能になったと考えています。 現在のケニーズの稼働率は日本オートキャンプ協会の拠出方法で約60%まで引き上げることができています。稼働率がどう変動するのかを把握しておくことで、サイトの販売価格を決める手掛かりになります。ハイシーズンには定価で提供し、あまり人の来ないオフシーズンには値下げをしたり特典をつけたりなどの工夫をこらすことで、集客につなげることできます。また価格や割引だけではなく、稼働率を上げられる工夫は、まだまだたくさんあります。一体どんな工夫があるのか、というのは、1月のマーケティングの回で後述します
■キャンプ場の稼働率の低さに愕然
2012年頃でしょうか、私がとある異業種の集まる経営勉強会に参加した時の事でした。当時のオートキャンプ場の稼働平均値は10.8%。ケニーズの稼働率を上げることが出来た私は「稼働率を17%にすることができました!」と勇み発表しました。ところがビジネスホテルを経営しているIさんからの質疑に当時の私は大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
「キャンプ場の稼働って何でそんなに低いのですか?」
「え、いや、キャンプ場は天候や季節で影響される部分が大きく、そんなに稼働が上げれないんです…。」
「そうですか。そんなに稼働が弱くて、商売になりますか?」
「固定費もあまりかからず、維持管理費も比較的安いので、稼働が低くてもなんとかなってます…。」
「そうですか。キャンプ場は客単価も低く、稼働も弱いので大変ですね。頑張ってください。」
「…、あ、有難うございます」
釈然としない気持ちのまま、当時の私は、「何でIさんは私の頑張りを認めてくれないんだ!さらに何かキャンプ業界にケチ着けてきて感じワル!」と多少頭にきておりました。実はIさんの質疑だけではなく、キャンプ場の稼働が低い理由を言い訳がましく説明している自分にも腹が立っていたのも事実でした。そして暫くしてビジネスホテルや他の宿泊業とキャンプ場の稼働率を比較したとき、私はキャンプ場の稼働率があまりにも低いことに愕然としました。その稼働率比較は下の通りです。
後に分かったことですが、Iさんの経営するビジネスホテルの稼働率は90%とのことでした。さらにはコンサートやイベントなどのある特日は稼働率が200%を超える日程もあるそうです。自分が如何にキャンプ場という狭い固定概念に縛られていたのか、ということを思い知らされたと同時に他の業界に学びながら現状を打破できるのではないかというモチベーションになった出来事でもありました。
これらの比較から分かるように、キャンプ場の稼働率は低いです。さらに先述したように日本オートキャンプ協会の稼働率の拠出方法は、冬季休業のキャンプ場や定休日の多いキャンプ場も含まれたうえに母数を営業日から拠出している為、実際の稼働率はより低いものと類推されます。一店舗売上高が低いのは、このようなキャンプ場の稼働率の低さとも相関関係があるといえそうですね。
それではキャンプ場の販売単価については一体どうなっているのか、以下に考察していきます。
② ADR分析
ADRとは…実際に利用された1区画の平均単価のことです。売上合計額を稼働したサイト数で割ったものです。
Average Daily Rate、ADRと表記されます。
ADRの求め方は、年間売上1,500万、5,000サイトを販売した場合、計算式は以下になります。
ADR=500万÷5,000サイト=3,000円
ADRの相場は、キャンプ場の立地や種類、官か民かの運営主体によって決まります。相場からかけ離れた料金設定だと利用者に敬遠されてしまうため、自社はもちろん競合のADRも把握しておくことは経営者にとって重要といえるでしょう。
また、売上の創出は「顧客数×単価」の2つのポイントによってのみ決定され、ADRは「単価を上げる」部分に着目した指標であり、キャンプ場の運営者は価格戦略に基づいてADRを高めるのか、それとも販売数量を上げる部分に着目した稼働率を上げていくのかの選択をせまられることになるでしょう。なぜならば、数量を増やすことと単価を上げることは、ともすれば矛盾し両立することは難易度が高いと考えるからです。
例えば、数量を増やすには安価であっても団体を受注したほうが良く、単価を上げるには安価な団体は受注しないほうが良い、という具合です。逆に単価を下げれば稼働率を高めることも可能となってきますが、当然ADRは下がってしまいます(薄利多売)。このような需給の相関関係は需要曲線といもので説明でき機会があれば後述しますが、いずれにせよ需給の相関関係には均衡点というものが存在し、そのポイントを見誤ったりバランスを崩してしまったりすると経営は一気に破綻してしまうので、プライシングなどを決定する際は充分に注意しましょう。
例えば、下記の2つのパターンを比較したとき
1. ADRが50,000円、年間販売が100サイトの場合…売上500万円
2. ADRが5,000円、年間販売サイトが2,000サイトの場合…売上1000万円
というように単純にADRが上がれば良い、というわけでもなさそうですね。
ちなみに当時のケニーズは、稼働率を上げる戦略を優先したのは先に述べた通りですが、ADRは下図の通り微増しました。
10年で稼働率は8%→60%に上昇しましたが、ADRを下げないばかりか微増させているということは、ADRが上がっても、顧客に割安だと感じてもらう付加価値を創出することができれば単価と稼働アップの両立はできるということが理解できるのではないかと思います。ここに企業努力が介在する余地があるわけですが、これも1月のマーケティングの回で後述します。
一方、キャンプ場業界全体のADRは一体いくらなのでしょうか。少し前にとある大手キャンプ場予約サイトに供していただいたデータによれば、キャンプ場全体とサイト種別毎のADRは下図の通りです。
ケニーズはキャンプ場全体のADRよりも高く、稼働率が高くても薄利多売のビジネスモデルではない、ということが分かります。またバンガローなどの建物系が高単価なのは分かりますが、グランピングのADRが突出して高いということが分かりました。これは既存のキャンプ場の概念を大きく変える出来事といっても過言ではありません。グランピングのADRで稼働を極めることが出来たらその収益性は素晴らしいものとなるでしょう。
■キャンプサイトの販売単価は低くない
次はキャンプ場のADRと他の宿泊業を比較しました。
旅館やパレスホテルなどのフルサービスホテルはADRが高いです。立地や温泉、プール、極上の料理、良質なサービスなど高い付加価値によってADRを高めることができるからです。またグランピングのADRも高く、コロナで需要が減少した異業種からの新規参入が多くなっている現状も納得できる値となっています。
キャンプ場のADRは低いとばかりおもっていましたが、ホテル全体のADRには勝っており低すぎることはないといえ、さらに都心にあるビジネスホテルのサンルート新橋のADRとほぼ同額ですので悪くはないとおもいましたが、いかがでしょうか。
■稼働率、ADRだけでは本当の生産性はわからない
さて今回は業界分析をしよう!といこうとで稼働率とADRを他業種と比較した結果、「キャンプ場の稼働率は低いが、ADRは決して安すぎることはない」ということが分かりました。しかし、実は単体の稼働率とADRの数値ではキャンプサイトの本当の生産性は分からないのです。
例えば、稼働率が上がってもADRが低く薄利なら売上は伸びず、利益率もあがりません。逆にADRが高くても稼働が低ければ売上は伸びず利益額が計上できません。というように、単体の数字だけでは必ずしも商売がうまくいっているとは言い切れないのです。それでは、生産性を推し量るにはいったいどのような数字を用いれば良いのでしょうか。
キャンプサイトの生産性を考察する時に稼働率やADR以外のデータを用いる行為は、私の知る限り見聞きしたことはありません。ですが市場規模も大きく成熟した旅館やホテル業界をみてみると、客室生産性を測る指標として昔からRevPAR(Revenue Per Available Room)という数値が用いられてきました。
RevPARとは、営業日の1区画の平均販売単価のことです。ADRは、「営業日に販売された1区画の平均単価」のことですが、RevPARは「営業日に販売されなかった区画も含めた1区画の平均単価」のことで、宿泊業界では最重要の収益性の指標となります。
このRevPARという数値をキャンプ場市場で考察してみた時にいったいどのようなことが分かってくるのでしょうか。次回はキャンプ場のRevPerを実際に拠出しさらに他業種と比較することで、キャンプ場の生産性についてより深く考察していきたいと思います!
今回も長くなりましたが最後までご覧いただき有難うございました。何かあれば気軽にご質問ください。
それでは、また来月!
執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。