【連載スケジュール】
- 4月-ビジネスとしてのキャンプ場(自己紹介、知的資本の分類、定義づけ)
- 5月-市場分析(マクロ要因・ミクロ要因分析)
- 6月-業界分析(OCC:稼働率、ADR:区平均単価、RevPER)
- 7月-業界分析(RevPER、ADRと RevPER比較から考察)
- 8月-収益性分析(企業会計と損益計算書の考察)
- 9月-収益性分析(貸借対照表の考察と動態比率分析)
- 10月-収益性の改善(需要曲線とレベニューマネジメント)
- 11月-収益性の改善(シーズンカレンダーとプライシング)
- 12月-事業戦略と事業計画(長期事業構想書と予算編成、実績管理)
- 1月-マーケティング(自社分析・ブランディングとプロモーション・差別化)
- 2月-人事(雇用・教育・評価・賃金・労働分配と生産性・組織造り)
- 3月-まとめ(顧客創造と業界の未来)
第2回 市場分析
■キャンプ場のビジネスモデルを分析しよう
前回は「キャンプ場経営の意義」を定義していきましたが、振り返ってみると初回はなんと5,600文字(400字詰め原稿用紙14枚分)となり、最後まで読んでいただいた方は本当に有難うございます!初回の内容を纏めると、
- キャンプは国民の福利に貢献する素晴らしいレジャー
- 福利を最大限にするためには、たくさんの良いキャンプ場ができるだけ長く営業していくこと!
- キャンプ場が良い経営をすることで、一層ステークホルダーへの便益も向上していく!
ということでした。。今回は要旨簡潔にいきたいと思います!
さて前回、会社組織は知的資本の集積で成り立っているとお話しましたが、そのなかで特に重要な上位フレーム、「ビジネスモデル分析」をしていこうと思います。主に以下の4項目から焦点を当てキャンプ業界の水準を明らかにしていきたいと思います。
■ビジネスモデル分析
- 市場分析(Market analysis)
- 業界分析(Industry analysis)
- 収益性の分析(Profitability analysis)
- 収益の改善(Revenue Management)
上記の1.2はマクロ要因(外的要因)です。マクロ要因とは、国レベルで物価や消費、金融などの動きを考えた経済社会全体の動きのことです。イメージでいうと、空から森全体を見るといった感じです。日常では、景気が悪いとか、円高だとか、失業率が上がった、消費トレンドがどうだとかいうニュースが問題になりますが、これらはマクロ要因のひとつです。大きな視点で世の中の動きを見ることで業界のこれからを考えることができますね。
マクロ要因は一企業や個人では如何ともしがたい部分があり、ここの部分を読み間違えるとトレンドから外れた業態などに事業展開をして失敗…!ということもあります。また、市場規模の拡大と自社の売上拡大が比例していない場合は危険な経営状態である可能性が高い、ということも判断出来たりします。
一方、3.4はミクロ要因(内的要因)となります。ミクロ要因とは個人や企業個別の経済活動とその収支のことです。マクロが森全体のイメージなら、ミクロ要因は森の木を一本一本見るイメージです。ミクロ要因は企業努力に与かる部分も多いので、例えばマクロでトレンドを外れていても圧倒的な標準化によるコストダウンによって業績を拡大していく、ということも可能になる部分でもあります。前置きが長くなりましたが、今回はキャンプ場のA「市場分析」を深堀りしていきたいと思います。
■キャンプ場の市場規模は、600億?!
少し前の日本の国内総生産は約540兆円で世界3位と言われていました。うち飲食業は25兆円、観光業は10兆、旅館業は5兆円です。とあるマーケティング会社の市場規模の調査によれば、アウトドア市場は約5,000億円、うちライトアウトドア市場(自然に関る用品・施設・サービス)は2,800億円です。キャンプ場はライトアウトドア市場内に分類されますが、キャンプ場だけの市場規模は私の知る限り拠出されておらず、それは業界にとって不幸なことであると考えています。というのは市場規模が明らかにされていないのに、一部分の数値でキャンプ場業界が良かった悪かったと論じることはできないですし、先ほどマクロ要因の項でも述べたように、「大きな視点で業界のこれからを考えること」ができない現状は不幸と言わざるを得ないでしょう。重要なことですので再度例えでお話します。
とある某キャンプ場の売上が、前年比105%で着地しました。凄いですね!
ではキャンプ場の市場規模が前年比80%の場合はどうでしょうか。市場縮小のなか大健闘の素晴らしい成果だと思います!では市場規模が前年比200%の場合、市場伸長率に比して低い某キャンプ場の105%の成長率は「良い結果」と判断するより、寧ろ退化していると考えた方が自然かもしれません。
というように企業の業績は、市場の推移によってもその善し悪しが左右されるということが理解できます。比較的規模が小さい業界においてはその規模が得られないという場合も多くありますが、その業界規模が拠出されないということは経営を判断するうえで重要な指針が欠落している、という認識をここでみなさんと共有したいと思います。
ですので、ここでは仮の係数を用いて市場規模を拠出してみました。これは第一回にも免責として記したように、あくまで私個人が判断に使用した独自の数値であることをご理解くださると幸いです。結論から述べると
■キャンプ場市場は約600億円程度、うちオートキャンプ場市場は186億円程度
という数字を拠出することができました。合っているかどうかは別として、まずは拠出してみるという行為が尊い行為であるとして、優しい目で見て下さい。計算式は以下の通りです(※数値にも予測値が含まれております)。
860万人(オートキャンプ人口)÷4.3人(オートキャンプ参加平均人数)=200万組(≒オートキャンプ参加延べ組数)
200万組(≒オートキャンプ参加延べ組数)×4.4回(年間平均キャンプ回数)=880万組(年間オートキャンプ延べ組数)
880万組(年間オートキャンプ延べ組数)×2,113円[キャンプ場RevPAR(1サイト平均販売単価)]=186億円(オートキャンプ市場規模)
某キャンプ場検索サイトの施設登録数(閉鎖除く):4,000か所÷オートキャンプ場の総数:1,250か所=3.2(キャンプ場倍率)
186億円(オートキャンプ市場規模)×3.2=595億円(キャンプ市場規模)
近似の業界である宿泊業やレジャー業の市場規模と比較すると、ホテル1.5兆円、旅館1.4兆円、ペンション・民宿850億円、ゴルフ場8,800億円、遊園地・レシャーランド8,500億円、カラオケボックス市場4,000億円、ゴルフ練習場1250億円、ボウリング600億円、スキー場530億円です。近似業態と比較して大きくずれている感はないと思っていますが、いかがでしょうか。
金額ベースでキャンプ場600億円の近似業界をピックアップするとシリアル550億円、カプセル玩具320億円、ポテトサラダ400億円です。オートキャンプ場186億円とほぼ同規模の市場はソース188億円です。ポテサラに負けました。
このように市場規模が拠出できると他の業界と比較するだけでも楽しいものがありますが、それ以外の便益も多くありますので、キャンプ場のデータを保有する予約サイトなどは積極的にデータを分析・開示して欲しいなぁと思います。個人的にはキャンプ場の市場規模がホテルや旅館などの宿泊市場の僅か2%程度と考えると、まだまだ欧米のアウトドア先進国のように需要の伸びしろがあると感じています。
■宿泊施設数の比較
また、厚生労働省によれば2019年度の旅館業法に分類される宿泊施設数は国内に約89,000軒あると発表されています。旅館・ホテル:約51,000軒、簡易宿所:約37,000軒です。旅館・ホテルの内訳は過去データから類推すると以下の通りです。旅館:約40,200軒、ホテル:10,800軒です。ホテルの内訳はビジネスホテル:約8,000軒、リゾートホテル:約1,550軒、シティホテル:約1150軒です。オートキャンプ場の数は1,270軒でシティホテルと同程度の軒数ですね。
キャンプ場はコテージやバンガロー・常設テント等が設置されている場合、簡易宿所に分類されますがテント泊のみであれば宿泊施設としてカウントされません。検証の為に比較しますとキャンプ場:約4,000軒、オートキャンプ場:約1,270軒です。市場規模の割に意外と数が多いんだなぁという印象です。
因みにコンビニ:約58,300軒、スーパー:約22,500軒、ドラッグストア:約21,000軒、飲食店においては67万軒あると言われています。
■一店舗当たりの年間売上高の比較
一店舗あたりの売上高を類推すると、リゾートホテル:約29億、シティホテル:約19億4000万、ビジネスホテル:約4億4,000万、旅館:約8億円(大:約22億、中:約6億、小:約2億)となります。オートキャンプ場の1店舗の売上高平均は、先ほどの市場規模の数値から約1,500万円と類推されます。※市場規模÷施設軒数)。キャンプ場全体でみると少し売上高は下がりそうです。また、外食産業は一店舗の平均が約1億円、コンビニは1億8,000万円あると言われています。
シティホテルとオートキャンプ場の数はほぼ同数としていましたが、一店舗の売上高で比較した場合、オートキャンプ場一店舗の売上高はシティホテルの1/12,000程度しかない、ということが分かってきます。下のグラフで見ても宿泊業の中でオートキャンプ場の売上高が低いことは顕著に確認(寧ろ見えない!)できます。広大な面積を保有しているキャンプ場なのに、地価や固定資産が大きいホテル・旅館のみならず、皆さんの身の回りにある小さい面積で営業しているコンビニや飲食店よりも売上高が低い、ということ理解したとき、業界に携わる皆さんはどのようなことを感じるでしょうか。
■キャンプ人口
一方、オートキャンプ人口のデータは以下の通りです。キャンプは余暇活動として行うレジャーですので景気が悪くなれば人口は下がります。象徴的な事象はバブル経済とその崩壊による人口の推移です。その後増税など様々な景気が悪化する要因に晒されながらもキャンプ人口は微増を続けています。何故なら、言葉を借りれば人間性の回復にキャンプは有効であるということを、これを読んでいる皆さん当然体感していることでしょうから。
特に2020年以降は爆発的にキャンプ人口が増加していくのは間違いありません。景気ではなく、感染症によって自然回帰の傾向が一層に顕在化したからです。これまで10年キャンプ場の経営に携わり売上は約7倍なりましたが、全てとは言わないまでもその要因は企業努力であり、キャンプ人口が微増したことが要因ではないと体感しています。ですが今回はさすがにキャンプ需要の高まりを感じずにはいられません。
- バブル経済(1980年中~90年初)-バブル崩壊(1989年~00年)
- ITバブル崩壊(2001年頃)
- リーマンショック(2008)
- 東日本大震災(2011)とアベノミクス、台風19号(2019)
- 増税(1989・1997・2014・2019)
- 新型コロナ(2020)
■市場分析からみる、キャンプ場の問題とは
とあるキャンプ場予約サイトによれば、登録キャンプ場全体で先般の冬の予約件数は前年対比で約2倍だったそうです。既存の市場は規模も拠出されないほどの小さな市場ではありましたが、現在進行中の需要の高まりは今後の市場成長に大きく寄与していくことは間違いありません。暫くは新規出店等が続き、お客さまの選択肢が増加する、キャンプ場(運営側)が利用できる管理システムなどのサービスも増加するなどの便益が見込まれます。
一方でキャンプ場の経営には充分に気を付けなければいけません。一時的に競合が増加することもそうですが、現在はさしたる努力をしなくともお客さまが集まってしまう特殊な状況下にあるからです。個人的には現在の活況に思い上がらず、珠を磨くように企業努力を怠らず、進化していく時期と認識しています。どうしてかというと、今後一転して需要に対し供給過多になった場合(オーバーサプライ)、進化できない体力のない小さな組織は淘汰されてしまう可能性が高いと考えているからです。
また、オリンピックに向け活況だったホテル業界、インバウンドに沸く観光地や飲食店の現在の苦境は誰が予測できたでしょうか。今は活況の業界でもコロナ後のre-globalによる内需縮小や天災・厄災などリスクがないとは誰にも言い切れません。ですが困難に相対した時、残っていけるのは備え蓄えていたもの、あるいは進化できたものであるのは間違いないと言えるでしょう。
第一回目の本コラムでは、中世の東インド会社を例にした健全な会社発展の概念を例にして「国民の福利を最大限にするためには、たくさんの良いキャンプ場ができるだけ長く営業していくこと!」と説きました。また定性を保つためには、組織化と収益性の向上が重要としました。そして、先ほど市場規模や一店舗売上高比較をした際に指摘した「キャンプ場の売上高は他の宿泊施設・業態に比較し低い」ということが、キャンプ場業界の長年抱えている根源的な問題でもあるように感じています。
■次回は問題点をさらに浮き彫りにし経営のヒントを紐解くべく、B)業界分析(Industry analysis)にすすみたいと思います。また業界分析では以下に記載する4つの視点でさらに突っ込んでいきたいと思います!
- 稼働率分析
- ADR分析(Average Daily Rate、実際に利用された区画の平均単価)
- RevPAR分析(Revenue Per Available Room、営業日の1区画の平均販売単価)
- ADR分析×RevPAR分析(クロス分析)
今回も長くなりましたが、最後まで読んでくださり有難うございました。
では、また来月!
執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。